夜の静寂が深まる頃、一筋の月光が薄暗い部屋を優しく照らしていた。咲良(さくら)はその光の中で一人、本を閉じた。心の中で抑えきれない何かが芽生えているのを感じながら、ため息をつく。
彼女が待っていたのは、彼――凌介(りょうすけ)だった。年上の彼は、どこか掴みどころがないが、深い眼差しと静かな言葉遣いに、咲良はいつしか心を奪われていた。そして今夜、誰にも知られたくない二人だけの逢瀬が始まろうとしている。
ドアがそっと開く音がした。咲良は心臓が高鳴るのを感じた。
「待たせたね。」
低い声が耳元に響く。振り返ると、凌介がそこに立っていた。スーツの上着を脱ぎ、シャツの袖を軽くまくった姿が、普段の冷静な彼とは違う魅力を放っている。
「いえ…私も、今来たところです。」
震える声を隠しながら答える咲良。彼女の瞳は、自然と凌介の視線に吸い寄せられる。
「ここに来た理由はわかってるよね。」
凌介の声が少し低くなり、咲良の心を揺さぶる。言葉は問いかけのようでありながら、既に答えを知っているような響きだった。咲良はただ頷くことしかできなかった。
近づく彼の足音に、部屋の中の空気が変わったのを感じた。咲良の背中にぴったりと寄り添うように立つ凌介。その熱が伝わる距離に、彼女は緊張を隠せない。
「ここでいいのか?」
彼が囁くように言うと、咲良はかすかに首を縦に振る。その仕草を見逃さなかった彼の手が、そっと彼女の肩に触れる。その触れ方は優しいが、彼女の中に潜む欲望を引き出すような確かな感触があった。
彼の指先が彼女の髪をすくい上げる。その動作に、咲良の鼓動はますます速くなる。目を閉じると、彼の香りが彼女を包み込み、理性を溶かしていくようだった。
「咲良…君がここにいてくれると、世界の全てがどうでもよくなる。」
不意に囁かれる言葉に、咲良の頬が紅潮する。普段の冷静な凌介からは想像もつかない感情が滲み出ていた。それが、咲良をさらに魅了する。
彼の手がゆっくりと背中に触れ、彼女をこちらに振り向かせる。目が合った瞬間、二人の間の距離が一気に縮まる。月明かりが二人の影を一つに重ねるように、唇がそっと触れ合った。
そのキスは、優しさと情熱が入り混じるもので、咲良の全身を電流のように駆け抜けた。彼の手は、彼女の細い腰を引き寄せるようにそっと添えられる。言葉を失うほどの瞬間が、二人の間に流れていた。
「これ以上待てない。」
凌介の言葉に、咲良の心は高鳴るばかりだった。彼女の中で渦巻く感情が、全てを委ねる決意へと変わる。その夜、二人だけの秘密が静かな月夜に溶け込んでいった。
エピローグ
朝が訪れる頃、咲良は凌介の隣で目を覚ました。窓から差し込む朝陽が、新しい日を告げている。隣にいる彼の寝顔を見つめながら、彼女は胸の中で新たな感情が芽生えていることを感じた。
「この夜が、私たちの始まりだったのかもしれない。」
咲良はそう心の中で呟きながら、静かに目を閉じた。喘ぎ声をあげながら激しく燃え上がるまでそう時間はかからなかった。