しっとりと雨が降りしきる夕暮れの街。大学の友人の結婚式に向かう途中、私はふと足を止めた。傘の向こう、駅前のカフェに見覚えのある顔があったからだ。
彼女の名前は沙奈。大学時代、私の初恋の相手だった。しかし告白することなく、彼女は海外へと旅立ち、自然と連絡も途絶えた。気持ちは心の奥に閉じ込めて、日常に戻ったはずだった。でも、目の前にいる彼女は、かつての面影そのままだった。
「沙奈…?」
声をかけると、驚いたようにこちらを見上げ、やがて懐かしそうに笑みを浮かべた。
「健太郎…久しぶりだね」
ほんの数分前まで、私の人生には何の変化もないと思っていた。けれど、再会した彼女を前に、心がざわついていた。
「少し時間あるかな?」
彼女はうなずき、二人でカフェに入った。並んで座ると、静かな空気の中、昔の思い出が蘇る。
沙奈は、笑いながら大学の頃の話をしてくれた。彼女の屈託ない笑顔を見ていると、どこか懐かしく、そして切ない気持ちに包まれた。彼女に想いを伝えられなかったあの時、自分は何をためらっていたのだろうとさえ思えてきた。
「海外での生活はどうだった?」
「うん、大変だったけど、楽しかった。でもね、やっぱり日本が恋しかったよ。だから戻ってきたの」
そんな彼女の言葉に、胸の奥が熱くなる。今度こそ想いを伝えられるかもしれないという期待と、時が経ったことで彼女がすでに他の人を愛しているかもしれないという不安が交錯する。
カフェを出て、駅まで歩く間、私は彼女の隣にいることがとても自然に感じられた。しかし、同時に時間が惜しくてたまらなかった。別れ際、どうしても自分の気持ちを伝えたかった。
「沙奈、俺さ、ずっと君が好きだったんだ」
一瞬、彼女は驚いたように目を見開いた。そして、ゆっくりと微笑みながら、言葉を紡いだ。
「…健太郎、私も」
その言葉に、これまで感じたことのない安堵と喜びが溢れた。しかし、その後の沙奈の言葉に、再び心が揺れることになる。
「でもね、今は…もう一緒にいる人がいるの」
彼女の瞳は少しうつむいていて、言葉は痛みを含んでいた。そんな彼女の表情を見ていると、かえって彼女が幸せであってほしいという思いが心に湧き上がってくる。
私は黙って彼女の手を握りしめた。沙奈もその手を軽く握り返してくれた。その瞬間、言葉ではなく、互いの気持ちが通じ合ったような気がした。
「ありがとう。君に出会えて、よかった」
別れ際の彼女の笑顔が、私の胸に深く刻まれる。彼女の幸せを願いながら、私はゆっくりと背を向け、歩き出した。